■見当識障害とは?
見当識障害は、「現在時刻や日付が把握できない」「自分がいる場所を理解できない」という特徴を持ち、認知症の主な症状です。この障害では、時間や場所の認識だけでなく、話し相手が誰であるかの識別も困難になることがあります。せん妄と誤解されがちですが、見当識障害はせん妄とは異なる病態です。
見当識障害とせん妄の違い
見当識障害とせん妄の主な違いは症状の進行速度にあります。せん妄は通常、急に発症し日内での症状の変動が顕著ですが、見当識障害はゆっくりと進行することが一般的です。
初期症状に関しても、せん妄では幻覚や妄想、興奮状態がよく見られるのに対し、見当識障害では主に記憶障害が認められます。さらに、せん妄は短期間で回復することが多いですが、見当識障害は認知症の中核症状のひとつでもあるため、継続的に現れます。
■見当識障害の症状は?
見当識障害の症状は、大きく分けて「時間」「場所」「人」に大別することができます。
「時間」に関わる症状
- 日付が分からない
- 季節が分からない
- 季節(気候)に合った洋服が分からない
- 約束の時間に合わせて行動することができなくなる
- 長時間待つことができなくなる
- 自分の年齢が分からなくなる
など
「場所」に関わる症状
- 迷子になる
- 自分の家まで帰れなくなる
- 近所など慣れた場所で道に迷う
など
「人」に関わる症状
- よく会う人なのに誰と話しているのか分からない(思い出せない)
- 家族でも認識(判別)できなくなる
など
■見当識障害の原因
見当識障害の原因は認知症のタイプによって変わります。例えば、アルツハイマー型認知症では、アミロイドβというたんぱく質が脳内に蓄積することが原因で起こります。この蓄積が進むことで脳が萎縮し、結果として見当識障害が引き起こされるとされています。
見当識障害は進行するとどうなる?
見当識障害が進行すると、患者さんの社会的行動に大きな影響が出ることがあります。たとえば、約束の時間を守れず遅刻する、早朝や深夜に時間感覚がずれて電話や訪問を行うなど、他人への配慮が難しくなることがあります。場所が分からなくなり迷子になったり、トイレの場所を誤認したりするなど、日常生活で困難を感じる場合が多いです。これにより、患者さんだけでなく家族もサポートが必要な状況になることがあります。
■見当識障害の治療方法(リハビリ)
見当識障害のリハビリでは、患者さんと家族や周囲の人々が互いに支え合うことが重要です。誰か一方に負担が集中しないようなサポート体制と、患者さんの自尊心を守ることを心掛ける必要があります。以下に挙げる点に注意して、日常生活を送ってみましょう。
「時間」を意識しましょう
時計やカレンダーなどを活用
「今日は○○月○○日ですね」「今は○○時○○分です」「○○時になったので夕食を始めましょう」といった風に、日常会話の中で時間や日付を確認する習慣をつけてみましょう。これによって、時間感覚を養う機会を増やすことができます
季節を感じる
「夏は暑いですね」「秋には木々が色づきますね」と話しながら、季節の変わり目を共に楽しむのも一つの方法です。外に出て散歩をしながら季節の移ろいを感じ取ることは、気分のリフレッシュにもつながり、認知機能の刺激にもなります。
日光を浴びる
日光(自然光)を取り入れることで、朝・昼・夜の時間感覚を明確にします。また、「朝になったからカーテンを開けようね」といった会話をしながらカーテンを開けるとより良いでしょう。
「記憶」を補っていきましょう
カレンダーを活用
一緒にカレンダーに予定などを書き込み、行動を記録していきましょう。
写真やアルバムを活用
一緒にアルバムを眺めながら、その写真が撮られた場所や写っている人の話をしてみるのもいいでしょう。
「工夫」で失敗を減らしましょう
見当識障害や他の認知症の症状で失敗が重なると、褒められる機会も減少し自尊心が低下します。しかし、ご家族や周囲の方の意識的なサポートとちょっとした工夫で、自尊心を保ちながら失敗を減らすことが可能です。
例えば、トイレの場所を覚えるのが難しい場合は、目立つサインを設置することで、トイレの成功率を高めることができます。これにより患者さんも自尊心を守れ、ご家族も清掃の手間を省け、共に満足感を得られます。排泄は認知症の患者さんにとって自尊心に大きく関わる行為ですので、このような小さな改善から始めてみましょう。何か困ったことがあれば、一人で悩まずに相談してください。
監修:こころとからだのケアクリニック人形町 院長 益子 雅笛(ますこ みやび)