■対人恐怖症とは?
多くの人々が人前で緊張や不安を感じることはよくあることです。しかし、この感覚が極端に強くなり、他人と交流することに恐怖を覚えたり、職場や外出時に苦痛を感じるようになると、それは対人恐怖症かもしれません。
この症状には、震えや赤面といった身体的な反応が伴うことがあります。対人恐怖症は性格や気質に起因することもありますが、特定の出来事がきっかけで発症することもあります。
この症状が進行し、日常生活に深刻な影響を与えるようになると、うつ病や引きこもりなどの他の精神的な問題が発生することがあります。対人恐怖症の方は、意欲があっても症状のために自分の能力を十分に発揮できないと感じることが多く、この結果、社会的に孤立し、引きこもることが増えています。これは現在、日本の社会問題としても注目されています。
対人恐怖症の診断基準は?
社交不安障害(対人恐怖症)の主な診断基準
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- 他者の注目を浴びる可能性のある社交的な場面に対する強い恐怖や不安
例えば、人前で話す、食事をする、飲み物を飲むなどの状況が含まれます。 - 不安や恐怖による行動の制限
恐怖や不安が原因で社会的な場面を避けるようになり、これが社会生活に支障を及ぼしている状態です。 - 持続的な症状
恐怖や不安、回避行動が6カ月以上続くこと。 - 他の精神疾患との関連が明確でない
症状が他の精神疾患によるものではない場合に該当します。
- 他者の注目を浴びる可能性のある社交的な場面に対する強い恐怖や不安
診断のポイント
これらの診断基準の重要な点は、「日常生活や社会生活に支障をきたす状況が6カ月以上続いているかどうか」です。ただし、最終的な診断は、これらの基準を基に、専門医が個々の状況を総合的に判断します。
対人恐怖症の症状は、自律神経失調症やうつ病とも関連する場合があり、症状が重なることがあります。そのため、専門的な診断と適切な治療が必要です。お悩みがある場合は、早めに専門医に相談することをおすすめします。
■対人恐怖症と社交不安症の違い
対人恐怖症と社交不安症は同一のものではありません。対人恐怖症の中には、性格的な特性としての「内気さ」(社会的に控えめであること)が含まれますが、これは病的なものではなく、場合によっては肯定的に評価されることもあります。しかし、この内気さが原因で生活や行動に支障をきたすようになる場合、対人恐怖症は社交不安症の一部とみなされることがあります。診療では、これらの症状や影響について詳しく伺いながら、適切な診断と治療を進めていきます。
対人恐怖症は神経症の一種
対人恐怖症は神経症の一種で、ストレスが大きく関係しています。この疾患で感じるストレスは、時に家族から見ても「些細なこと」と思えることが原因である場合もあります。この病気により、患者さんは他人との交流を恐れるようになります。
発症には、人前で失敗した経験などが影響しており、症状は若い年齢から見られることが多いです。典型的な症状には、人前で声が震える、顔が赤くなる、人と上手く話せないなどがあります。症状が悪化すると、引きこもりやパニック症状を併発することもあります。
症状の現れ方は人それぞれで、軽い場合は日常生活に大きな影響はなく自然と回復することもありますが、症状が進行すると日常生活にも障害をきたすことがあります。
治療には、薬物療法や心理療法が主に用いられます。薬物療法では、不安感の軽減や動悸、緊張、体の震えなどを和らげることを目的に、適切な薬剤が処方されます。心理療法では、患者自身が心のコントロールを徐々に学ぶことが目指されます。当院では、患者が治療を無理なく継続できることを最も重要視しています。
対人恐怖症になりやすい人の傾向や日常生活への影響
対人恐怖症は、神経質や慎重、また真面目な性格、人見知りが強い人や感受性の鋭い人などが発症しやすいとされています。しかし、重要なのは一度対人恐怖症になると、患者さん自身が深く苦しみ、日常生活が困難になることです。そして、一人で状態から抜け出すのが非常に難しいという現実を、周囲の人々が理解することが重要です。
患者さんは周りに助けを求めるのが難しく、自信を失い、ますます孤立してしまい、何か行動を起こす意欲も失われがちです。これにより、日々の生活から徐々に遠ざかり、悪循環に陥ることもあります。この状況がエスカレートすると、他の精神疾患の発症や、引きこもりに至ることも少なくありません。誰かに相談することから治療を始めることをお勧めします。
監修:こころとからだのケアクリニック人形町 院長 益子 雅笛(ますこ みやび)