■引きこもりとはどのような状態か?
2010年に厚生労働省が発表した「引きこもりの評価・支援に関するガイドライン」では、引きこもりを、さまざまな要因によって義務教育や就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊などの社会的参加を回避し、原則として6カ月以上家庭内に留まり続けている状態と定義しています。他者と関わらない形での外出は含まれません。また、精神疾患や障害がなく、周囲がその状況を受け入れているため支援が不要な場合も含まれています。ただし、医療や支援、福祉サービスが必要な引きこもりに対して適切な対応を行うことの重要性が近年ますます注目されています。
引きこもりで見られる症状
身体症状
- 頭痛
- 吐き気
- 食欲不振
- 発熱
- 全身倦怠感
- めまい
- 不眠
精神症状
- イライラする
- やる気がしない(無気力)
- 集中力の低下
- 気持ちの落ち込み
引きこもりや不登校の原因とは
引きこもりや不登校の原因は人それぞれ異なるため、一概に特定することは難しいとされています。しかし、内閣府の調査によれば、以下のような要因が引きこもりや不登校に繋がるケースが多いと報告されています:
- 職場や学校に馴染めなかった
- 人間関係のトラブル
- 就職活動や受験の失敗
- いじめ
- 家庭の問題(ネグレクト、虐待など)
- 病気や体調不良
これらの要因が単独で影響する場合もあれば、複数が重なることで症状が悪化するケースもあります。また、これらの表面的な原因をさらに深く掘り下げていくと、発達障害の特性が関係している場合も少なくありません。
引きこもり・不登校と発達障害の関係
発達障害は、ADHD(注意欠陥多動性障害)やLD(学習障害)など、さまざまな種類があり、その特性も多岐にわたります。これらの特性が原因で、周囲の人が簡単にできることがうまくこなせなかったり、学習の遅れが目立ってしまったりすることがあります。これが学校や職場での孤立感やストレスを生み、結果的に引きこもりや不登校に繋がることがあります。
また、日本の教育環境は集団行動を重んじる傾向が強く、発達障害の特性を持つ子どもにとってはその方針が合わない場合があります。発達障害を持つ方は、個性的で特定の分野で才能を発揮することが多いものの、その個性が集団生活の中では理解されにくく、息苦しさを感じることがあるのです。
海外のようにホームスクーリングや個別の教育支援が整っている環境であれば、こうした才能を伸ばしながら、社会に適応する力を育むことができるかもしれません。しかし、日本ではこのような選択肢が限られているため、集団生活に適応しやすくするための支援が必要とされます。発達障害の特性を正しく理解し、それに基づいたサポートを行うことが、引きこもりや不登校の解決に向けた重要なステップとなります。
社会全体での支援の重要性
引きこもりや不登校に悩む方への支援は、学校や家庭だけでなく、社会全体で取り組むべき課題です。例えば、発達障害の特性を理解し、多様な価値観を受け入れる職場や教育環境を整えることで、多くの人が自分の居場所を見つけやすくなるでしょう。
当院では、引きこもりや不登校の背景にある発達障害や心の問題に寄り添い、一人ひとりに合わせた支援を提供しています。気になる症状がある場合やお悩みがある方は、どうぞお気軽にご相談ください。
引きこもりを生み出す背景
引きこもりの背景には、社会的な要因に加えて精神的な疾患が関与している場合も多いとされています。そのため、引きこもりを引き起こす要因に応じて適切な支援策や対応策が求められます。
支援機関としては、地域若者サポートステーション、引きこもり地域支援センター、子ども・若年支援地域協議会などがあり、詳細は各自治体に問い合わせると良いでしょう。また、精神的な症状が引きこもりの一因となっている場合には、心療内科や精神科、メンタルクリニックなどの医療機関でのケアが重要です。
診察や心理検査を通じて、引きこもりが病状によるものと判明することもあります。その場合、治療によって症状を軽減し、社会復帰に向けた支援を受けることが可能です。さらに、受診を通じて病状を正しく理解することで、必要な支援や協力を得る手がかりをつかむこともできます。
■医療機関を受診するか迷われている方へ
馴染みのない場所に相談し、援助を受けることに戸惑いを感じる方もいらっしゃるかもしれません。もし少しでも「相談してみようかな」「受診してみようかな」とお考えになられた際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。不安や悩みが少しでも軽くなるよう、全力でお手伝いいたします。また、必要に応じて、患者さまに適した医療機関や支援機関、社会福祉サービスのご紹介も承ります。どうぞお気軽にご相談ください。
8050問題とは?
近年注目されている「8050問題」とは、80代の親が引きこもり状態にある50代の子どもの生活を支えている状況を指します。かつては、引きこもりは学校に行けない若い世代の問題とされていましたが、年齢の高齢化が進み、現在では引きこもりの子どもが50代に達するケースが増えています。また、新型コロナウイルスの影響により、就職したい、外出したいと思ってもそれが叶わない状況がさらに悪化し、引きこもり問題が深刻化しています。こうした8050問題は、経済的困窮を招くことがあり、時には家庭内暴力や悲惨な事件につながることもあるため、専門家による適切な支援が求められています。
当院では、引きこもりやうつ病など精神疾患でお悩みの患者様やご家族に対し、精神科・心療内科クリニックとしてサポートを行っています。薬物療法をはじめ、精神科デイケアプログラムなどを通じて、少しずつ人との交流を始められるよう支援しております。また、社会福祉のご利用方法についてのご案内も行っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
引きこもりからの脱却に向けて…
引きこもりは「甘えている」や「怠けている」といった印象を持たれがちですが、実際には、頑張り屋で完璧主義、自分に厳しく素直な性格が影響していることが多いとされています。その頑張りがふと途切れてしまった結果、引きこもりやうつといった形で表れることがあります。学校や仕事を休むと、責任感から「もっと頑張らなければ」「迷惑をかけてしまった」と自分を責め、さらにプレッシャーを感じてストレスをため込む傾向が強まります。
また、引きこもりは内向的で感情をあまり表に出さず、人目を気にする性格の方に多いとされています。思いをうまく伝えられず、コミュニケーションの摩擦が引きこもりを助長する要因になることもあります。評価を気にするあまり、自分の努力や頑張りが認められなかった際に、自尊心が傷つき、自分への不安や怒りを抑えられなくなり、引きこもりに至るケースも少なくありません。
一方で、力の抜き加減を知っている楽観的な人や怠けやすい人は、真面目で責任感が強い方から見るとうらやましい側面があるかもしれません。ただ、「自分にはできない」と悲観的に考えるよりも、「これが自分らしさ」と肯定的に受け止めることで、物事の捉え方が変わることもあります。自分を否定するのは簡単ですが、他人からの肯定や承認を得るのは難しいことも多いものです。だからこそ、まずは自分自身を肯定し、少しでも心を軽くすることが大切です。
当院では、引きこもりでお悩みの方に寄り添い、支援を行うことで少しでもお力になりたいと考えています。どうぞお気軽にご相談ください。
監修:こころとからだのケアクリニック人形町 院長 益子 雅笛(ますこ みやび)