■家にいたい・理由が分からない
「会社に行きたくない」「家でゆっくり休みたい」「なんとなく体調が悪い」と感じることは誰にでもあります。しかし、こうした不調が長期間続いている場合、単なる疲れだけではない可能性も考えられます。やる気が出ない自分を責めるのではなく、まずは一度立ち止まって深呼吸してみましょう。このような状態は、こころの病気が関係している場合もあります。ここでは、その中でも代表的な【うつ病】について解説しながら、理解を深めていきましょう。
会社に行きたくないのは、うつ病かもしれない
会社に行きたくない」という言葉だけを聞くと、周囲の人の中には「甘えているのではないか」と捉える方もいるかもしれません。また、仕事をしている多くの方が、程度の差はあれど「休みたい」「会社に行きたくない」と思った経験があるのではないでしょうか。その中で、「みんなが我慢しているのに、自分だけできないなんてダメだ」と自分を責めてしまう方もいるかもしれません。
頑張ることや我慢することは、社会人にとって大切なことです。しかし、「あと少し頑張らなければ」「自分だけ休むわけにはいかない」と責任感が強すぎる人は注意が必要です。そのような頑張りが過ぎてしまうことで、自分でも気づかないうちにうつ病を発症してしまうことがあります。そして、「会社に行きたくない」「行く気力が出ない」という気持ちが強まり、動けなくなってしまう場合もあります。
以下を参考に、どのような状態がうつ病に該当する可能性があるのか、考えてみましょう。
うつ病とは考えにくいケース
- 疲れが溜まっている、寝不足続いていてやる気が出ない
- 休み明けや月曜日の勤務が面倒だ、と感じてしまう
- 仕事でプレッシャーがある、またはトラブルを抱えて気が重い
- 上司や同僚、取引先の方等の人間関係がストレスになる
上記の項目は基本的にうつ病とは異なり、一時的な状況と考えられます。うつ病との違いは、「実際に会社に行ってしまえば気にならない」「仕事への集中力が維持され、苛立ちを感じても一時的である」といった点です。この状態では、日常生活に支障がなく、業務や私生活、さらには時事ニュースなど周囲の出来事にも適切に気を配ることができるでしょう。また、休日や余暇を利用して、自分なりの趣味を楽しむ余裕もあります。
辛い仕事でも「乗り越えれば達成感や満足感が得られる」「報酬に直結しなくても、対外的・社会的な評価が期待できる」と考えて続けられる方も多いようです。仮に現状を前向きに捉えづらい場合でも、「辛い現状を乗り越えれば、今抱えている苦境が楽になる」と期待して頑張ることも可能です。心身が健全であれば、このように生活に大きな支障をきたすことなく、日常をこなしていけます。つまり、仕事を含む生活全般で「以前と比べて著しく支障が出ている」「目立って辛さを自覚するようになった」といった状態がなければ、健常であるといえます。
解決が難しい長期的な課題に直面している場合でも、「最終的な目標を明確にし、達成目標を分割して一つずつ取り組む」ことで前向きに進むことができます。また、仕事のやり甲斐や自身なりの意義を見出すことで、仕事への取り組み方を変えることも可能です。新たな業務に直面し職場全体が不慣れであっても、職場環境が健全であれば「皆も同じように頑張っている。職場一丸で乗り切ろう」と前向きに取り組めるでしょう。その結果、周囲とともに経験を積み、ノウハウや対処スキルを身につけていくことができます。
このような状況は、特殊な能力が求められる職域(例えば一部のプロアスリート)を除き、一般的に多くの職場で共通して言えることです。雇用の際には、こうした点を考慮して採用が行われており、雇用されている段階で本来はその基準をクリアしているはずです。このように考えることで「現況を乗り越えよう」と前向きな気持ちや気力が湧き、「今を何とかしよう」と思えるようになるでしょう。
この際、仕事の「オンとオフ」の切り替えが重要になります。休日や余暇の時間を効率的に活用し、自分に合ったリフレッシュ方法を取り入れることで、気持ちを切り替え、集中力や意欲を回復させることができます。
うつ病の可能性があるケース
- 今までと変わっていないはずなのに労働時間が長く感じられる、以前はできていたことも今はできない(気がする)。
- 今までと同様な仕事量・時間でも、非常に疲れやすいと感じる。
- 以前は楽しい、面白いと感じられていたことも味気なく感じてしまう。
- 上司や先輩、同僚等からの言動に、今の自分が対応できていない気がして、気になってしかたない。
- どうしても心身が動かず、仕事に行けなくなってしまう
- 会社や仕事が自分に合っていないと感じ、休日を休んで過ごしても、いつも元気や活力が改善している感じがしない
上記に挙げた項目に該当する場合、心身に過剰なストレスが継続的にかかっている可能性が高いと言えます。このような状態で無理を続けると、最終的にうつ病に至るリスクがあります。【負けず嫌いで、現状をなんとか乗り切ろうとする頑張り】は困難を乗り越えるうえで非常に重要な資質です。しかし、人間が“生身の生き物”である以上、自分が現状できること、できないこと、その限界を冷静に見極めることも同様に大切です。
たとえば、有史以来、平地での100m短距離走の世界記録が9秒を切ったことがないという事実は、【どんな状況でも、生身の人間が時速40km以上で走ることは不可能】であることを示しています。この限界を無視して無謀な訓練をすれば【怪我】につながり、さらに無理を重ねれば【大怪我】を引き起こします。仕事においても、こうした「何ができるか、何ができないか」という視点を持つことは非常に重要です。チームで取り組む場合には、誰か(通常はその統括者)が全体の限界を見極める必要があり、個人での仕事では自分自身がその視点を持つ必要があります。
ただし、「人に迷惑をかけたくない」「責任を果たさなければならない」といった強い責任感を持つ人ほど、このような視点を見失いやすく、他人からの助言を受け入れづらくなることもあります。そのため、仕事で最適なパフォーマンスを発揮するには、【仕事以外の時間でしっかり休息を取る】ことが不可欠です。人間が“生身の生き物”である限り、休みなく働き続けることは不可能だからです。
休息を確保するためには、【頭を切り替え、休息の準備を整える】ことを習慣化することが大切です。限界を超えて頑張りすぎると、心が折れたり、思考が煮詰まったりしてしまいます。そのような状態に陥る前に、意識して休息を心掛けることが必要です。責任のある立場にいる30代後半から50代の方々は、若い世代に比べて休職や長期休暇を取ることへの抵抗感が強いかもしれません。しかし、まずは一人で抱え込まず、身近な方やご家族に相談することから始めましょう。
精神科医としての立場から、特に30代後半~50代の働き盛りの方々が、家族を養うために無理をして働いている状況についてお話を伺う機会が増えています。中間管理職として複数の人間関係のトラブルを抱えている方や、勤続年数の長さから【あれもこれもお願いされて】仕事が雪だるま式に増え、【終わりが見えない…モチベーションが上がらない】というお悩みを抱える方も多くいらっしゃいます。こうした多忙な環境の中で、休息や気持ちの切り替えが上手くできない状態が続くと、ちょっとしたきっかけで【もう、何もかも嫌だ…】と投げやりな気持ちになってしまうことも十分に考えられます。
【うつ病を発症しているために会社に行きたくない】場合、【会社で辛い状況が続いた結果、うつ病を発症した】場合、さらには病状とは関係なく、待遇や実務環境との不一致から【会社に行きたくない】という感情が生じる場合もあります。このような状況でお悩みの際は、まず身近で信頼できる方に相談することが最善の方法かもしれません。それでも不安や焦り、落ち着かなさが続く場合には、専門の医療機関に相談してみることも大切な選択肢の一つと考えましょう。
■うつ病で仕事に行けない場合の対応について
業務を見直してもらえないか相談する
メンタル不調の原因が特定の業務に起因している場合、その要因を取り除くことは効果的な対処方法の一つです。職場の状況によっては、不調の要因を完全に解消することが難しい場合もありますが、まずは上司や人事担当者に相談することから始めてみましょう。その際、自分の状況や考えを整理し、意志や意向を明確に伝えることが、自分自身を守る第一歩となります。
職場での問題が発生した際、「自分が我慢すればよいのでは」と考える方も少なくありません。しかし、不調が深刻化するにつれ、「相談することで職場に迷惑をかけてしまうのでは…」と不安を感じる場合もあるでしょう。ただし、企業には「社員が安全かつ安心して働ける環境を整える義務」があります。このような状況でも解決策が見つかる可能性はありますので、まずは相談することから始めてみるのが大切です。
休職する
仕事に行きたくない原因がうつ病にある場合、休職して療養に専念することも一つの選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。休職後に職場復帰を目指す際には、リワークと呼ばれる復職支援プログラムを活用することができます。復職に対して不安を抱えている方は、こうした制度を積極的に利用するのも良いかもしれません。
当院では、うつ病の治療だけでなく、社会生活に復帰するためのご相談も随時受け付けております。お悩みのことがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
転職する
休職という選択肢が難しい場合や、現在の職場で将来の見通しが立たない場合には、転職を検討することも一つの選択肢となります。ただし、うつ病の症状がある状態では、判断能力が低下していることがあり、本来の冷静で客観的な判断ができなくなっている場合も少なくありません。例えば、「あの人とどうしても合わないから退職するしかない!その後のことは退職してから考える!」といった、感情的で勢いに任せた決断をしてしまうことがあります。
焦って体調が万全でない状態で重要な決断をしないように注意が必要です。こうした場合は、一人で抱え込まず、周囲の信頼できる方や専門機関のスタッフに相談しながら、慎重に進めていくことをおすすめします。
雇用形態の変更を検討する
うつ病を発症した場合、発症してからの経過年数や条件によっては、精神障害者保健福祉手帳(障害者手帳)を取得できる場合があります。障害者雇用として働くことにはメリットとデメリットの両方がありますが、働き方の選択肢を広げる一つの手段となるでしょう。
まずは、専門機関に相談し、障害者手帳が取得可能かを確認してみましょう。その上で、障害者雇用に関するメリットとデメリットを理解することから始めてみることをおすすめします。
監修:こころとからだのケアクリニック人形町 院長 益子 雅笛(ますこ みやび)