気分障害

気分障害とは

気分障害

うつ病は「かぜをひく」のと同じような、決して珍しい疾患ではありません。しかし、自然に治るものだと思って放っておいたり、気の持ちようで解決したりすることは難しく、適切な治療を受けないと重症になりかねない恐ろしい疾患です。近年、うつ病は「気分障害」の一つとして分類されています。下記項目では、気分障害の特徴と治療法についてまとめています。

気分障害の特徴

気分の変動(高揚や落ち込みなど)が一定のレベルを超えてしまい、その状態が一定期間続き日常生活に支障をきたす疾患です。
気分障害は大きく分けると2つに分かれます。1つ目は抑うつ状態を特徴とする「うつ病」で、2つ目は、躁状態とうつ状態を交互に繰り返す「双極性障害(躁うつ病)」です。

うつ病

うつ病とは

脳の働きに何らかの問題が生じることで発症する精神疾患を「うつ病」といいます。気の持ちようや気合いで解決できる問題ではなく、精神科医による適切な治療が必要な疾患です。そして、うつ病は「精神的な症状」だけではなく「身体の症状」がみられることもあります。罪悪感や気分の落ち込みといった症状ではなく、疲労感や身体の痛み、不眠などの症状を訴えて内科などを受診し、あらゆる検査を受けても異常が発見されなかった場合は、うつ病による「身体の症状」であることが考えられます。どの疾患にも言えることですが、うつ病は早期発見・早期治療が重要です。症状を自覚するのは難しい疾患でもありますので、少しでも心配なことがありましたら当院へお気軽にご相談ください。

うつ病の症状

主に、以下のような症状がみられます。症状が長引いている場合は、早期発見・早期治療のために精神科・心療内科へ相談しましょう。

代表的な症状

抑うつ気分
  • 悲しい気持ちになる
  • 気分が落ち込んでいる
  • 憂うつ感がある
  • 将来が不安

など

通常よりも気持ちが落ちこみ、悩みを抱える状態になります。

興味や楽しみを感じなくなる

趣味や仕事など、今まで楽しめていたこと、普段行っていることへの興味・関心がなくなります。

  • これまで楽しいと思えたことが楽しめなくなった
  • 人との交流が億劫に感じる
  • 何をしても楽しくない
気力や動きの低下
  • いつもより疲れやすい
  • 気力が湧かない
  • 身体が重く感じる
  • 日常生活で行う動作が鈍くなった

などの症状が挙げられます。

睡眠障害(眠れない、寝すぎなど)
  • 寝つきが悪い
  • 熟睡感がしない
  • 夜中や早朝に起きてしまう

このような症状がみられることもあります。

また、

  • 夜、寝すぎてしまう
  • 日中も寝てしまい、睡眠リズムが崩れている

のような症状がみられることもあります。

集中力や思考力の低下
  • 集中できない
  • 考えがまとまらない
  • 新聞やテレビの内容が頭に入ってこない

等の症状が現れます。仕事や勉強、家事が思うようにできなくなります。

死にたいと思うようになる
  • 自殺したくなる
  • 死について繰り返し考える
  • 死んだ方がマシだと考えてしまう

「死にたい」という気持ちが強い時は、入院して経過観察を行う場合もあります。

動作や話し方が遅くなる、または早くなる

第三者にとっても分かるくらい動きや話し方が遅くなる、口数が減少することもあります。
また、じっとすることができない、身体を常に動かすといった症状もみられます。

強い罪悪感が湧く

「自分は無価値なんだ」と思い込んだり、「全部自分のせいだ」と強く自責の念に駆られたりすることがあります。

食欲や体重の変化

普段と比べて、食欲がなくなったり食欲不振から体重が減ったりすることがあります。 逆に食べすぎや体重増加がみられることもあります。

身体症状

以下のような身体症状がみられる場合もあります。身体症状があるのにも関わらず、病院で検査を受けても何らかの異常や疾患が見つからなかった場合は、うつ病の可能性も考えられます。

  • 頭痛、頭が重い
  • 胃が痛い
  • 食欲不振
  • 息苦しさ
  • 微熱が続く
  • 肩こり、関節痛
  • 下痢、便秘などの胃腸症状
  • 汗をかく

日内変動(症状の重さが時間帯によって変わる)

1日24時間の中でも、症状に波があることが多いです。朝方は一番気分の落ち込みがみられ、午後から夕方にかけて症状が軽減される(日内変動)傾向にあります。 1日の中で変わってしまうことから、「ただの気分の変動」と勘違いされてしまうケースもあるため、要注意です。

うつ病の治療方法

治療法は患者さんの状態によって異なります。患者さんの日常生活や社会生活、家庭環境などを考慮し、ガイドラインに沿った治療法を提供して参ります。十分に患者さんのお話をお伺いした上で、適切、適量な薬物療法を行い、寛解になってからは減薬を徐々に進めていきます。そして、寛解の維持と治療終結を目指します。

休養

うつ病は、心身ともに疲れたことで、脳の機能が低下してしまった状態です。
まずは十分に心も身体も休ませ、負担を軽くすることが重要です。

薬物療法

薬の種類はたくさんありますので、症状や副作用などに考慮し、患者さん一人ひとりに合った薬を選択致します。症状が落ち着くようになった段階でも、服薬は続けてください。自己判断で止めてしまうと症状が再発してしまう恐れがありますので、医師の指示に従ってください。

抗うつ薬

脳内のセロトニンやノルアドレナリンという物質の働きを促進させ、うつ症状を解消させる効能に期待できます。

抗不安薬・睡眠薬

うつ病の患者さんの中には、不安感や不眠に悩む方もいます。これらの症状でお悩みの場合は、睡眠導入剤や抗不安薬などを用いることもあります。

精神療法

あらゆる研究によって「うつ病の原因は1つだけとは限らない」ということが判明されています。そのため、カウンセリングを通して、環境要因(家庭環境・仕事・人間関係など)やご自身の思考の癖を改善させることも重要です。専門家と一緒に、ご自身の思考や行動の癖を振り返って見直すことは、再発を防ぐ上でも有効です。

副作用や妊娠について

副作用や妊娠について

副作用のないお薬は基本的にありません。できるだけ副作用の少ない薬で治療できるよう、患者さんと相談しながらお薬を選択致します。

診断書について

診断書が必要な方は、受診された時に受付までお声がけください。 診察時に医師が「必要」と判断した場合は、初診でも診断書を発行します。

うつ病になった時、仕事はどうすればいいのか

まずは治療をはじめて、状態が改善に向かったのちに仕事についてじっくり考えることをお勧めします。治療前は仕事を辞めたいと思っていても、改善してから「やっぱり仕事を続けたい」「職場復帰したい」と考えを改めるようになる傾向があります。うつ状態の時は治療を優先して、考えがまとまる状態になってから退職するか続けるかどうかを検討していきましょう。

職場のメンタルヘルスについて

躁うつ病・双極性障害

双極性障害とは

双極性障害

気分が高揚する「躁状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」が交互に現れる疾患です。昔は「躁うつ病」と呼ばれていましたが、「うつ病」の一種だと誤解されてしまうという問題があったため、今はその呼称で呼ばれていません。うつ病と双極性障害はそれぞれ、特徴も治療法も異なる疾患です。そのため医師は、長期的に診察を続けながら疾患の鑑別に努めて参ります。

 

双極性障害の症状

双極性障害は2種類あり、激しい躁状態とうつ状態が繰り返される「双極Ⅰ型」と、軽躁状態(軽めの躁状態)とうつ状態が繰り返される「双極Ⅱ型」に分けられます。躁状態とうつ状態の間隔は、数ヶ月空くこともあれば数年空くこともあります。躁状態から突然、うつ状態に切り替わることも少なくありません。また、はじめはうつ状態で来院された患者さんが、その後に躁状態へ切り替わったことを機に、双極性障害が発見されたという事例もあります。他にも、患者さんご本人は「うつ状態が続いている」と思っている状態でも、「実は知らず知らずのうちに、何度も軽躁状態になっていた」というケースや、うつ症状が改善して体調が良くなったと思ったら、軽躁状態だったという場合もあります。こういったケースも、双極性障害に当てはまります。また、うつ状態の期間の方が、長期間続くことが多いです。

躁状態

  • 気分が高揚してハイテンションになった
  • 一睡もしていなくても元気
  • 人の意見を聞かない、万能感がある
  • 怒りが我慢できない、暴言を吐く
  • 話が止まらない、やたらと話しかける
  • ギャンブルやショッピングで浪費してしまう
  • 性的に奔放になる
  • 周囲から「元気すぎる」「○○さんらしくない」と指摘された

など

うつ状態

うつ病と同じような症状が起こります。また、躁状態の時に行った言動への罪悪感や自己嫌悪によって、さらにうつ状態が悪化してしまうこともあります。

うつ病の症状について

双極性障害の治療法

早くから適切な治療を受けることで、症状を落ち着かせながら患者さんらしい生活を取り戻すことができます。

薬物療法

うつ状態や躁状態、維持期(再発を防ぐ期間)に合わせて、処方する薬剤を調整していきます。治療で大事なことは、ご自身の持病について理解し、適切な治療をコツコツ続けていくことです。

躁状態での薬物療法

気分安定薬を中心に処方します。気分安定薬のみで改善させることが難しい場合は、補助薬として抗精神薬も服用していただくことがあります。

うつ状態での薬物療法

主に、気分安定薬を服用していただきます。うつ病の時に用いる抗うつ薬とは、違う薬剤を処方します。

維持期(再発を防ぐ期間)

双極性障害は再発リスクの高い精神疾患です。そのため、気分安定薬の継続服用で、再発を防ぐことが重要です。また、患者さんによっては、補助薬として抗精神薬を処方することもあります。

精神療法

薬物療法と並行して行う精神療法は、治療をスムーズに進める上でも有効です。患者さんご本人が疾患を受容し、自分自身で症状をコントロールできるようサポートして参ります。

診断書について

診断書の発行を希望される際は、来院時に受付までお声がけください。
診察時に医師が必要だと判断した方には、初診でも診断書を発行します。

持続性気分障害(感情障害)

持続性気分障害とは

うつ病を発症した時に現れる「抑うつ」ほど重くはないが、うつ病よりも軽い「抑うつ症状」が慢性的に2年以上続いてしまう疾患です。
重症化すると、うつ病へ移行してしまうケースもあります。

持続性気分障害とうつ病の違い

うつ病の診断基準にはない持続性気分障害の症状

  • 絶望感
  • 自尊心の低下

持続性気分障害ではみられないうつ病の症状

  • 興味や関心、喜びの喪失
  • 「自分には価値がない」と感じる、強い自責感
  • 精神運動の制止または焦燥
  • 死について何度も考える、自殺について考える

持続性気分障害によくみられる症状

  • 自己評価が低い
  • 絶望感を抱く
  • 社会的ひきこもりになる
  • ネガティブ思考になる
  • 不適切であるという感情が湧く

解離性障害

解離性障害とは

「解離」とは、本来一つにまとまっている記憶や知覚、意識、自我同一性(アイデンティティ)が、一時的に喪失してしまう状態です。この状態になると、記憶や思考、知覚、行動、感情、身体イメージがバラバラに体験されてしまいます。例えばですが、ある特定の記憶が一時的に消えてしまい、気付いたら知らない土地にいたという出来事や、自分から意識だけが離脱し、自分を俯瞰して見ているように感じる現象などが挙げられます。誰にでも一時的な解離現象はあり、特に小さい子どもの場合は、心の防衛反応として「解離」が起きてしまうことは多々あります。これらは自然に治る一過性の症状ですので、直さなければならないものではありません。しかし、何かしらの出来事で心が傷付いた時に起こる「解離」の場合は、治療が必要です。このように「解離」は、健常者にも現れる(正常解離)症状でもあり、どのように症状が現れるのか、その度合い、持続期間などは人によって異なります。しかし、解離によって日常生活を送るのに支障をきたしてしまったり、人間関係がスムーズに構築できなかったりするほどでしたら、その方の生活に深刻な障害を与えるものになります。これらの状態が「解離性障害」です。

解離性障害の原因

解離が起きてしまう原因は未だによく分かっていません。しかし、心的外傷体験からくるストレス障害や、両親との愛着問題、解離が起こりやすい元々の素質などが原因だと考えられています。さらに、現在の患者さんがため込んでいるストレスの度合いも、発症に少なからず関係しているとも指摘されています。心的外傷経験としては、大きな災害、事故、暴行事件などの一過性の出来事や、虐待や監禁、戦争など、長期間経験してきた出来事が挙げられます。このような精神的ショックを受ける時、人は防衛反応として、深刻な精神的ダメージから己を守ろうと自己を切り離すようになります。この働きが「解離」です。

症状や特徴

症状は個人によって異なります。解離性健忘や離人感、現実感消失障害、解離性同一性障害などに分けられることがほとんどです。WHOが作成したICD-10などでは、以下のような症状・特徴があると定められています。

主な症状

解離性とん走、解離性同一性障害、離人症性障害、解離性健忘、解離性昏迷

その他の症状

解離性けいれん、ガンサー症候群、解離性知覚麻痺・知覚脱失、解離性運動障害、解離性転換障害、失立、心因性振戦、心因性失声、心因性難聴、心因性錯乱状態など

 ここでは、5つの症状について解説していきます。

解離性とん走

アイデンティティ(自分が何者かいう感覚)が失われ、突然家庭や職場などから失踪して知らない土地での生活を始めたり、突然元居た場所に帰ってきたりする状態です。失踪している間、自分自身の行動に関する記憶はなく、思い出すことはできません。

 

解離性同一性障害

はっきりと区別することのできる人格が一人の中に複数存在している状態です。よく「多重人格」と言われています。

それらの人格は、本人の行動を抑え、交代で出現します。ある人格が現れている時は、他の人格は記憶を残していないため、「身に覚えのないことがいつの間にか起きている」といったトラブルを引き起こしてしまいます。

 

解離性健忘

強い精神的ストレスから、自身に起きた出来事の記憶を喪失させ、思い出すことができなくなった状態のことです。ほとんどの場合は数日程度で記憶が元に戻りますが、長期にわたって健忘が続いてしまうケースもあります。

 

離人症性障害

「自分は自分である」という感覚や意識が実感できず、自分の姿を外から府監視しているかのように感じる状態です。自己が分かれて二重化することで生じる状態だと言われています。

 

解離性昏迷

突然、身体を動かせなくなったり、言葉が話せなくなったりする状態です。

随意運動や光、音、発語、接触に対する正常な反応が消失(または弱くなる)するようになります。しかし筋緊張は正常なため、静止している姿勢や呼吸の機能においては特に問題ありません。

解離性障害の治療法

特に推奨されている治療法は「心理療法」です。別人格が作られている患者さんにつきましては、人格を元の1つに戻す治療を受けていただきますが、すぐに症状が治るとは限りません。まずは患者さんと治療側との間に、良い信頼関係を構築していくことが大切です。信頼関係を築いてから、出現した複数の人格に対してアプローチを行ったり、トラウマ体験の記憶の対処法を指導したりすることで、高い治療効果が期待できるとされています。現在、解離性障害に適応のある薬物はありません。ですから解離性障害の治療は長期的に行う必要があります。患者さんと信頼関係を作り、症状を回復させるためには、心理療法を長期間継続していくことが重要です。

 ※解離性障害については精神科専門病院など他施設をご紹介することがあります。